お弁当版「わらしべ長者」<前篇>

その頃の妻は、帰宅すると毎日、同僚の弁当のおかずについて 話をしていた。


「今日はヤマダさんに、ししゃものフライをもらっちゃった」

「イマムラさんちの卵焼きって甘いのよ」


妻は仕事が忙しく、昼休みも外に行けなかった。

そこで、毎日おむすびを持たせることにしたが、僕も忙しく、 それしか作ってやれない。

「おかずは、朝、駅の近くで買えるから気にしないで」と妻が 言っていたのを幸い、おむすびだけを毎朝作っておいた。 俵むすび


何と工のないかと、今頃になってあの頃の僕自身に 呆れている。

実際のところ、妻はおかずを買わなかったようで、昼食は、 二口ほどで食べきれる小さな俵型のおむすびが六つか八つだけの 寂しいものだった。


当時彼女がいた部署は、異常なまでに忙しかった。

昼食は机で摂るしかなく、全員が弁当を持ってきていた。


男の社員は、全員が、朝のうちに近くのコンビニエンスストアで 買ってきておいた弁当を食べていた。

一方、女の社員たちは、これまた全員、弁当をつくって 持ってきていた。

お弁当にも男女差があるものなのね」 と妻は観察の結果に驚いていた。

だが、妻だけが観察していたのではない。

周りも彼女を見ていたのだ。


女の弁当は「かわいらしい」。

蓋(ふた)に絵のある、こどもが使うような小ぶりの弁当箱に、 ごはんは半分以下、たぶん3分の1か4分の1しか入れていない。

おかずは、赤いミニトマト、黄色の卵焼、緑のレタスなど、色の 組み合わせを考えながらきれいに詰める。

女にとって大切なのは「見た目」だ。


「かわいらしい」弁当が並ぶ中で、妻のおむすびは目立った。

色の組み合わせもなければ、かわいらしさなど露ほどもない。

妻が弁当を持って行くようになって一週間、ついに詮索が始まった。


「タルトさんのおむすび、かわいいわね」

隣に座っているヤマダさんがきいてきた。


「仕事をしながらだから、手が空かないと困るじゃない?」 「そうよねえ。形も珍しいわね」

ーいろいろとききたいわけね。


「俵型っていうのかしら。私は三角おむすびなんだけど、が 作るとこうなるみたい」

「え!? ご主人が作ってるの!?」


思わず大きくなったヤマダさんの声に、ほかの女の社員が集まってきた。 (後篇につづく) もなか 記 ☆お弁当作ってもらっていた妻の感想はこちら  「おむすびの最適サイズ」

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